ねこ猫ネコ…黒猫クの物語


ねぇ、キミ。
今までで一番おいしかった食べ物って、なに?

キミの心に残っている、忘れられない程おいしかった食べ物を、一つ教えてくれないかな?
たった一つでいいんだよ…


 

 黒猫クの大冒険 その2 〜究極のカリカリを探して


ボクたち猫の好物は魚だって思われがちだけど、ジツは違う。
魚よりも肉が好きな猫もいるし、チーズやハム、ケーキやアイスクリームが大好きな猫だっている。

でも、人間の食べ物をたくさん食べちゃいけないんだ。
玉ネギとか長ネギ、あとニンニクなんかも絶対にダメなんだよ。

そこで登場したのが、ドライなキャットフード。通称“カリカリ”。
ボクは猫缶も大好きだけど、カリカリも大好き。

とくにボクには、どうしてももう一度食べたい、究極のカリカリがある。

それは昔、ボクが保護された公園に、毎日やって来るおじさんが、いつも持ってきてくれたカリカリなんだ。

今ボクが、いつも食べているカリカリも、決して悪くはないけれど、
そのカリカリと比べたら月とすっぽん、ネコに小判(?)。
とにかく最高に美味しいカリカリだったんだ。

「ああ。もう一度、あのおじさんに会って、あの思い出の美味しいカリカリが食べたい…」

そう思ったボクは、意を決して、思い出のカリカリを探すために、
あの海辺の公園へ出かけることにしたんだ。





よく晴れた休日の公園では、たくさんの人たちがあちこちで、楽しそうにお弁当を広げていた。

ボクは、自慢の黒鼻を頼りに、おいしそうな臭いがする方へ向った。

木陰のベンチでは、おにいさんとおねえさんが仲良く並んで座って、ハンバーガーを食べてた。

「あ、黒猫だ。ほら、これ食べるかい?」

ボクを見つけたそのおにいさんは、自分が食べていたハンバーガーを、小さくちぎって分けてくれた。

すると、植え込みから飛び出してきた猫が、素早くハンバーガーをカッさらって、
ハグハグハグと、夢中で食べ始めてしまった。
「あ!」 ボクは思わず、
「そのハンバーガーには玉ネギが入っているよ。食べないほうがいいよ」と言ったんだ。

でも、ボクの声は、おにいさんの耳には「ニャーニャー」としか聞こえない。

おにいさんは「やれやれ、盗られちゃったかあ。よし、もう一口あげよう」と、
少しだけ残ってたハンバーガーを、また小さくちぎってボクにくれた。

ボクは、自分のハンバーガーを分けてくれたおにいさんの、優しい気持ちに感謝しながらも、
「おにいさん、ありがとう」と、お礼だけを言って、その場を立ち去ったんだ。





公園の奥の、海が見渡せる場所に着くと、ところどころにカリカリが置いてあった。
「猫おばさん」と呼ばれてる女の人が、野良ネコたちのためにカリカリを置いていってくれるんだ。

そのカリカリを、数匹の猫たちが食べていた。
三毛猫もいればさび模様の猫もいる。白黒ブチもいれば、きじトラの大きな猫もいた。


ボクは置かれているカリカリの匂いを嗅いでみた。
クンクン…。

 「もしかしたら、このカリカリが究極のカリカリかな?」
そう思ったボクは、お腹はすいていないけれど、一口だけ食べてみた。
「…違う。」
残念ながら、ボクが探しているカリカリじゃないみたいだった。

それでも、すぐ隣にいる大きな猫は、バクバクおいしそうに食べている。

がっかりしたボクは、その猫に尋ねてみた。
「究極の美味しいカリカリ、知らない?」
そしたら、その猫は、
「究極のカリカリ?これのことじゃないのかい? だってこれ、スンゴク旨いぜ!」
と、カリカリから顔をあげずに答えた。

ボクは、誰にともなく「ごちそうさま」って言って、また他を探しはじめた。





その後ボクは、公園の中を歩き回り、あちこちで色んなカリカリをもらったんだけど、
どうしても究極のカリカリに出逢うことが出来ない。

そのうちに、だんだん日も暮れてきて、ポツポツ雨も降ってきた。
「雨かあ。仕方がない。帰ろう」

ボクは家路に着くことにした。ボクの自慢のキャットウォークで、家まで30分。
急がないと、本降りの雨になってしまう。
足早に軒先をつたって走っていたら、大きくて立派な豪邸から、
「ク・ク、クククのク〜♪」と呼ぶ声がした。

『ゲゲゲの鬼太郎』のテーマ曲に乗せて、ボクを呼ぶ声の主は分っている。
豪邸に住むシャム猫のルーシャだ。

彼女と出遭ったいきさつは別の機会にお話するとして、とにかく彼女は、ボクのことを見つけると、
必ず面白おかしく、「ク・ク・クのク〜」って歌うんだ。

しかも、「よる〜は墓場で盗み食い♪楽しいな、楽しいな〜」なんて続けるんだよ…。
ボクは盗み食いしたことなんかニャいのにさ。
「その歌はカンベンしてよ。」

ボクはルーシャのもとへ駆け寄って言った。
「今日は究極のカリカリを探しに、公園へ行ってきたんだよ」

「究極のカリカリ?クは、美味しいものが食べたいの?
だったらこれ、私の今夜のディナーなんだけど、良かったら食べる?」

ルーシャ用の、華奢な長い足が付いた、キラキラ光るクリスタルガラスの器に盛られていたのは、
テレビのCMで見たことのある、グルメな猫の高級缶詰だった。

「うわ〜、スゴイご馳走だね!」

ボクは匂いを嗅いでみた。美味しそうな良い匂いがする。
「ルーシャは、いつもこんなのを食べているの?」

「そうよ、毎日毎日。もう飽きちゃったから、クにあげる。」

こんなご馳走に飽きちゃうなんて、信じられない…。
そこでボクは、ちょっと味見してみたんだ。
今まで食べたことのない味だけど、充分に美味しい。
「美味しいじゃん。」

「だって、高級品だもの。
クが探してる究極のカリカリよりも美味しいでしょ?」

そうルーシャは言うけど、ボクが探している味と、やっぱり何かが違う…。

結局ボクは、せっかくルーシャが譲ってくれたご馳走を、一口だけしか食べなかったんだ。

そうこう話しているうちに、雨が強くなってきた。
「ヤベ!帰らなくちゃ。じゃあね、ルーシャ。ごちそうさま。」

ドシャ降りの雨の中を走ったボクは、途中で何度も雨宿りしたとはいえ、
すっかりズブ濡れになってしまった。

これじゃ、猫じゃなくて、濡れネズミだよ…。





やっと家にたどり着いたボクは、もうホントに腹ぺこだった。
外は日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。

あちこちでもらったカリカリも少しずつしか食べなかったし、
ルーシャのご馳走もボクが探していた味じゃなかった…。

ボクは、「ただいま〜。お腹すいたよ〜」と、家の中へ入っていった。


キッチンの片隅の、いつもの場所に置かれたボクのお皿には、
ボクのためにちゃんと用意してくれた、いつものカリカリが盛られていた。

究極のカリカリに出逢えなかったぼくは、しかたなくそのカリカリを食べ始めた。

その時、ボクは驚いたんだ。

「スゴク美味しい! これだ!この味だ!」

いつも食べなれているはずのカリカリが、もう本当に美味しくて、
究極のカリカリの味がしたんだよ。


そして、ボクは分かったんだ。


おじさんが持ってきてくれたカリカリが、めちゃめちゃ美味しかったのは、
いつもボクたちが、とてもお腹をすかせていたから。


そんな腹ぺこのボクたちのためにそのおじさんは、
雨の日も風の日もかならず、たくさんの重いカリカリを、自転車に積んできてくれたから。


そして、ボクたちが夢中でカリカリを食べているのを、そばでニコニコと微笑みながら
ずっと静かに見守ってくれたから…。


あの時のボクは、自転車に乗ってやって来るおじさんの姿を見つけると、
嬉しさで胸がいっぱいになったことを思い出したんだ。

おじさんの優しい笑顔も思い出した。


おじさんが持ってきてくれたカリカリが、スゴク美味しい究極のカリカリだったのは、
そのおじさんのボクたちへの愛情が、たっぷり入っていたからだったんだ。


「そうか、それであんなに美味しかったんだな…」


ボクがいつも食べてるカリカリにも、ちゃんと愛情がたっぷり入っていることを、
どうしてボクは、忘れてしまったのだろう?


今ボクは、ボクを愛してくれる人たちに、心からこう伝えたい。

「本当に、本当にありがとう!」






 この『黒猫クの大冒険U〜究極のカリカリを探して』は、otto&tu-が作ったお話しです。 


   

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