ねこ猫ネコ…Cat達の物語



私たち夫婦には、ある1匹の忘れられない仔猫がいます。
週末になると出かけていた、海辺の大きな公園で出会い、顔なじみになった仔猫です。

公園ではたくさんのネコたちが数匹から十数匹のグループを作って、
ゴハンを運んで来る人を待っているのでした。

その公園に行くとき私達は、自分達のお弁当のほかに、サンマの頭やカニカマなどをお土産として持って行き、
ネコたちに会うのを楽しみにしていました。

そうやって、なんどか公園に行っているうちに、愛称を付けて呼ぶようになるほど、
顔なじみになったネコが数匹いたのですが、その中の1匹です。

私たちはそのコに、『ファントム』という愛称を付け、呼びかける時は縮めて『トム』と呼んでいました。
片目にかけて白い模様が入った顔が、ちょうど『オペラ座の怪人』のファントムのように見えたからです。

まだ生後半年も経っていないような、キジトラのオスの仔猫でした。


 

 仔猫の トム =@〜inside my mind


私たちは、トムに会うために、週末になるとお土産を持って、公園に出かけていました。

トムも、私たちのことをおぼえてくれたようで、
お土産をもって近づくと、茂みの中から飛び出してきて、足にまとわり付いてくるのでした。

トムのいた場所には、たくさんのネコたちが一緒にいましたが、
いつも真っ先に飛び出してくるのがトムだったのです。

そんなトムのことを、とてもいとおしくなり、何度もオットとふたりで話し合った末、
捕まえてきて、ウチで飼おうということになりました。

そして、ある晴れた週末に、お持ち帰り作戦を決行したのです。

作戦は成功。
いつものように懐いてきたトムを、なんなく捕まえて、用意していった段ボール箱に入れました。

うまくトムを捕まえることができて、大喜びの私たちが急いで家に帰ろうとした、その時です。

トムと同じグループにいた白い仔猫が、大きな声で鳴いたのです。

それまで箱の中で静かにしていたトムが、その鳴き声に返事をするように、
なんとも言えないような大きな声で鳴き出しました。

まるで白い仔猫の鳴き声は、『トムを連れて行かないで!』と聞こえましたし、
箱の中のトムの声は、『キミ達と離れたくない!』と言っているような気がしたのです。

虚を突かれた私たちは、思わずその場に立ち止まりました。

白い仔猫も、箱の中のトムも、大きな声でずっと鳴き続けています。

私たちは、居たたまれないような気持ちになり、
とっさの判断で、 トムを連れ帰るのをあきらめました。

箱から出たトムは、一目散に白い仔猫たちのグループの所にもどり、
茂みの中へ姿を消してしまいました。

お持ち帰り作戦に失敗した私たちは、うなだれて公園のベンチにすわり、今の出来事を話し合いました。

とても落ち込んだ気持ちで、「きっとトムはあの場所で、グループのネコたちと暮らす方が、
幸せなのかもしれない」と思い、トムを飼うことをあきらめました。


今でも、その時の私たちの判断が、正しかったのかどうか、フッと考えてしまうことがあります。


私たちはその後も、相変わらず、お土産をもって、トムに会いに公園へ行っていました。

トムにきらわれてしまったかもしれないと心配していたのですが、今まで通り私たちが近づくと、
前と同じように懐いてくれるのが、とても嬉しかったのです。


その後しばらくすると、トムの姿を見かけないようになりました。

たくさんいたグループのネコたちも、だんだん見かけなくなってしまったのです。

たぶんそのグループのネコの数が、あまり増えすぎたために、お世話をしている人たちが、
べつの人目につかないような所に、誘導したのかもしれません。

当時は公園のネコの事情通であるTさんとも知り合っていませんでしたので、
トムがどうなっかのかは分りません。

でもきっと、とてもかわいらしいコだったので、誰かに拾われてどこかの家で、
幸せに暮らしているんだと、願いを込めて思っています。


そんなことがあった次の年、トムがいた同じ場所で、
お持ち帰り作戦の時に大きな声で鳴いた白いネコを見つけました。

その時、白ネコと一緒にいた小さな仔猫の顔の模様が、トムにソックリだったのです。

私たちは、きっとトムと白ネコの間に生まれた、トムの子供に違いないと思っています。

お土産を持って近づいていくと、トムがそうっだったように、
しげみから飛び出してきて、足にまとわりついてくる姿も、そっくりだからです。


今、私たちは、そのコに『ファントム2世』と愛称を付け、呼びかける時は『トム』と呼び、
週末になるとお土産を持って、彼に会いに行くのです…






  

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